SP企画

風俗にまつわる有名人のコラムコーナー

kaku-butsuカクブツJAPAN〜俺にも言わせてくれ〜

kaku-butsuにゆかりのある人物が、週替わりで、時に熱く、時にクールに風俗に限らず世の中(ニュース、カルチャー、スポーツetc...)について、語り尽くすコラムコーナー

第15回は、AV監督、鎗ヶ崎一さんです。

AV監督
鎗ヶ崎一

「超高級ソープ嬢」シリーズなどの主観映像による風俗物や、「SOD女子社員」シリーズなどのバラエティ物を得意とする。単体女優さんをキレイに撮る事にも定評がある。 業界一のサッカーフリークとして有名。

エビと周富徳、バナナとダニエウ・アウベス

2014/06/12(木)

AV監督 鎗ヶ崎一


「エビ食べさせときゃいいんだよ、日本人は。」
中華の料理人なのに、やたら高いコック帽を被ったギョロ目の男が、フライパンから火を吹き上げながら、厨房にいる10人ぐらいの日本人の弟子達に叫んでいた。
「日本人は、せっかちだから料理出るの遅いと怒るよ。」
「エビから出しな、エビ食べてれば文句言われないから。」

今から20年くらい前、TVの仕事をしている時、のちに「料理の鉄人」にパクられる、バラエティ番組の打ち合わせで、はじめて中華街にある周富徳先生のお店を訪ねた。厨房が落ち着いてから、周さんは僕とADにもエビを食べさせてくれながら、一方的に喋った。
「日本人ってさ、本当に優秀だよね。勤勉だし、真面目だし、その辺に小便したりしないからさ。でも、ひとつだけダメな所がある。とにかく、せっかちだよね。少しでも料理遅れるとプンプン怒ってさ。まぁ、エビ食えば、収まるんだけどね。」
日本人って、そんなにエビ好きだっけ?と思いながらも、これだけ上から目線で、日本人の事を断言する人を初めて見て、むしろ気持ちよかったのを覚えている。

2014年4月27日 ビジャレアルVSバルセロナの試合中に、ブラジル代表のDFダニエウ・アウベス選手がコーナーキックを蹴るために、アウェイのコーナーポストに近づいた時、スタンドから1本のバナナが投げ込まれた。実はヨーロッパのサッカー界では、未だに有色人種に差別的行為があるらしい。とにかく、有色人種の選手を“サル”だとからかうのである。“ウッキーキー”と奇声を浴びせ、バナナを投げつける。アウベス選手に投げられたバナナ。周さん的に言うと「お前、サルだろ。バナナでも食ってろ!」だ。
しかし、コーナーにボールをセットしたアウベス選手は、何食わぬ顔で、世界中がびっくりの行動を取った。なんと、そのバナナを拾って、剥いて一口食べてから、ボールを蹴った。「オレはサルだよー。何か文句あるー。」と言わんばかりに。
この映像は、世界を駆け巡り、バナナは人種差別に反対するアイコンになった。イタリアの首相と代表監督が、ジーコが、ネイマールが、長友とインテルのチームメイトが・・・バナナを持って笑う写真を撮り、配信した。そして、カクブツのTOPページでも、サッカーのユニフォームを着た姫たちが、バナナを持って笑ってる。やるね。

2014年4月8日 炎の料理人、周富徳さんが亡くなった。僕は周さんから、ここでは書ききれないほど多くの事を教えてもらった。周さんは会うたびに、エビ料理をたくさんたくさん作ってくれた。今や中華の定番メニューになった「エビのマヨネーズ和え」を世界で最初に作ったのは周さんで、試作段階で何度も食べさせていただき、感想を言ったりしたのが、今でも僕の自慢です。
「周さん、オレ、日本人なので、エビ食ってりゃゴキゲンですよ」周さんに言いたかったな。
そして、周さんは日本人より、多分世界で一番せっかちな人だった。僕がロケを失敗して、ヘコんでいる時、そっと後ろに立って言ってくれた。「クヨクヨしちゃ、ダメだよ。僕だって完璧なチャーハン出来るの10回に1回だよ」とウソついて励ましてくれた。
「料理なんて、1回1回反省したら、キリないからね。次から次に作りゃあいいんだよ。早く次の作りな」と励ましてくれた。お礼を言おうと思って振り返ったら、もういなかった。

昨日、近所の中華料理屋に行きました。せっかちな僕は、すっごく料理が出てくるのが遅い事にマジで腹立ったんですが、やっと来た「エビマヨ」食べたら機嫌がすっかり直りました。
周さんに初めて会った時の事を思い出して、ちょっとだけ泣きました。ちょっとだけ。

周さん、本当にありがとうございました。どうか、ゆっくり休んで下さい。合掌。