SP企画

風俗にまつわる有名人のコラムコーナー

kaku-butsuカクブツJAPAN〜俺にも言わせてくれ〜

kaku-butsuにゆかりのある人物が、週替わりで、時に熱く、時にクールに風俗に限らず世の中(ニュース、カルチャー、スポーツetc...)について、語り尽くすコラムコーナー

第16回の今回は「kaku-butsu」の覆面調査団員である千原武さんに筆を取っていただきました。

せきしろ

kaku-butsu SOD風俗調査団員
千原武

SOD風俗調査団の団員として、初期の頃から1年以上調査をおこなってきた女々しいM男。何よりも「心の繋がり」を感じられるかに重きを置いて風俗に通う。調査レポートはフェチ系やハードプレイ店のものが多いが、興味のある初心者の方にこそ是非読んでもらいたい。

ラジオ(聴覚)、TV(視覚)に次ぐ触覚伝達メディアのある未来

2014/06/19(木)

千原武


皆さんこんにちは。調査団員の千原武と申します。

個人的に今春から調査をお休みしているのですが、コラム執筆の貴重な機会をいただいたため限定復活をさせていただきます。今日は技術的な話を書かせていただきます。とはいえ私の興味はあくまでもエロに繋がる「コミュニケーション」というジャンルに留まります。という訳で、コミュニケーションの未来とそこで使われる技術について書いていきます。

コミュニケーションの未来、と聞いて皆さんはどんなものを想像するでしょうか。これまでコミュニケーションの形は技術の進歩と共に変わってきました。簡単にこれまでのコミュニケーション手法と技術の関係の歴史を紐解きましょう。19世紀の後半、1876年にベルが電話の特許を取得しました。日本では1952年に日本電信電話公社が設立され、一般の家庭にも固定電話が広まりました。丁度2000年を境に、携帯電話も広く普及し始め、2014年現在ではスマートフォンアプリでの無料通話やチャット形式での連絡が一般的になっています。

一方で、聴覚以外を通したコミュニケーションの手法も生まれています。携帯電話を介したTV電話もそうですし、ネット回線を利用したSkypeでのビデオ通話、映像配信プラットフォームも多くあります。かつて、場所と時間という二つの概念によって制約されていたコミュニケーションは、現在はそのどちらの制約からも解放されています。即ち、遠く離れた場所にいる人とも聴覚と視覚で連絡が取れ(場所の制約からの解放)、時間差で音声メッセージを残したり、半永久的に映像を残すことができます(時間の制約からの解放)。

このように、技術の進歩と共に制約が取れてきたコミュニケーションですが、まだまだ解放されうる余地はあります。というのも、現状の情報伝達技術があくまで聴覚と視覚を通じた情報しか対象にしないからです。SODが革命を起こしたAVというジャンルは女性の魅力を場所と時間を超えて伝える大変貴重な存在ですが、あくまで聴覚と視覚しか伝達しません。人間が受信する情報量の殆どが視覚と聴覚なので、一般的なコミュニケーションにおいては充分とも考えられますが、どこか物足りなさを感じることはないでしょうか。

少なくとも風俗に興味のある方が当コラムを読んでいることを考えると、皆さんはやはり視覚、聴覚を超えた情報伝達を求めていると思います。人間の五感における残りの三要素には嗅覚、味覚、触覚があります。そして実はそれぞれについて遠隔地に情報を伝達したり、時間を超えて情報を保存したりする技術が研究されています。その中でも今回は触覚について少しだけ掘り下げます(匂いフェチ、味覚フェチの方はごめんなさい)。

触覚が伝わる、と聞いて皆さんはイメージが湧くでしょうか。湧きにくいと思います。それは聴覚、視覚(嗅覚、味覚も)が一方通行の情報伝達であるのに対して、実は触覚だけが双方向での情報伝達であるためです。小学生の頃に理科の授業で「作用・反作用の法則」という言葉を習ったと思います。この法則は一方が他方に力を掛けているとき、その他方も一方を同じ力で押し返しているという物理法則です。このため、発信側が受信側へと一方通行(ユニラテラル)に情報を送るのではなく、触覚情報は複数の物体が双方向(バイラテラル)に情報を送り合っているのが特徴です。

触覚も実は細分化ができて、「固い、柔らかい」といった押し動作における感覚である「力覚」、「つるつる、ざらざら」といった対象をなぞるときの感覚である「表面触覚」、更には痛覚や冷温感などに分けられます。アカデミックの分野ではそれぞれの触覚伝達について、次世代のコミュニケーション手段ないしメディアとなるために研究がされています。今回は分かり易いので、「力覚」の伝達について、どの程度の研究がなされているのかを紹介します。

例えばテレビショッピングで「柔らかいベッド」を紹介していると想像してください。TV出演者のタレントがベッドを押して柔らかさを伝えますが、聴覚と視覚だけでは本当の柔らかさは伝わりませんよね。そこで未来のテレビショッピングにおける力覚伝達を考えます。先述の通り、触覚は双方向性を持ちます。つまりこちらから押さないと固さも分からない訳です。現状の研究では、超高精度に制御されるモータを間に介すことで、力覚を伝達する手法が研究がされています。

具体的にはテレビショッピングを放送しているテレビ局にあるモータと、各自が自宅に持っているモータが同期して制御されると考えてください。つまり、貴方が自宅にあるモータを押すと、テレビ局にあるモータも同様に押されます。ここで位置の同期だけでなく、「作用・反作用の法則」を加速度次元の制御で超高速に満たすことにより、ベッドの柔らかさがモータを介して伝わります。百聞は一見に如かずといいますが、これに関しては「一触に如かず」です。

私は何度も最新の力覚伝達装置を操作してきましたが、既に現状のモータ制御技術で、現実での触覚と比べても遅れや違和感がなく遠くにある物の力覚を感じられます。触覚という双方向性のある感覚の特性上、必ずモータなどのデバイスを介さないと伝えられないのが難点ですが、例えば外骨格型の装置を手に嵌めるだけで、遠隔地にいる人とリアルな力覚を感じ合いながら握手することは技術的には既に可能です。

遠隔地に伝えられるということは、触覚を詳細な情報として管理できるということです。そのため、もちろんリアルタイムで伝達し合うだけでなく、情報の保存もできます。保存する情報量が多大になってしまうという課題は指摘されているものの、先の例でいえばベッドの柔らかさの情報をテレビ局側が配信することで、各自が自宅のモータでいつでも好きなときにその柔らかさを堪能できます。力覚伝達については、伝統技能の保存や継承、遠隔医療の診断や手術において特に研究が進んでいます。

以上、簡単に力覚伝達の未来についてご紹介しました。触覚には「つるつる・ざらざら」といった表面触覚も存在するといいましたが、これも想像してもらえば分かる通り、何かしらのデバイスを介さないと流石に伝えられません。逆にいえば、装置さえできれば伝わるので、表面触覚を伝える装置と制御手法についても研究は進んでいます。

「触覚を伝える」。聴覚や視覚と異なり、どうしても「双方向性」という壁がありシンプルには行かないのですが、私はラジオ(聴覚)、TV(視覚)に次ぐメディアこそは「触覚メディア」だと信じています。ここまで頑張って「エロ以外」というテーマで進めて参りましたが、皆さんが最初から想像している通り、触覚伝達が可能になった先にはより深いコミュニケーション、即ち性愛的コミュニケーションが存在するでしょう。既にオナホ連動型のエロゲーや速度と圧力を伝え合う遠隔セックスグッズなどもありますが、「触覚が付与されたAV」や「触覚を伝え合うライブチャット」も、私たちが死ぬまでに何かしらの形で実現化するのではと思います。

とはいえ最後に、この輝かしい(?)未来にツッコミを入れて終わりにしたいと思います。実はTV電話の技術が発明され、現存するかなりの携帯電話でTV電話が可能な訳ですが、私たちは未だにメールや電話をより好みます。欧米人はよくiPhoneでビデオ通話をしていますが、情報量が増えれば増えるだけ良いという訳ではなさそうです。実は私も触覚伝達の研究に関わっていた頃、音声、映像、触覚の三要素が伝達されたコミュニケーションを研究員としていたとき、ふとした寂しさを覚えました。

こんなに伝わっているのに、一緒にいない。こんなに伝わっているからこそ、足りない部分が気になる。このときの不安感こそが、私がこの分野での研究をやめた理由の一つです。断言しましょう。どれだけ技術による情報伝達が高度化したところで、物理的に同じ時間と同じ場所を共有するコミュニケーションは超えられません。きっと「オーラ」と呼ばれる類いのもの、我々が五感で分かる以上の情報が、物理的に時間を共有するコミュニケーションには存在します。そしてそれこそが即ち「風俗」の本質的な魅力なのかもしれません。