電話の奥から笑い声が聞こえる。入浴料だけさせてくれという望みがよほどおかしかったのであろう。こんな願いをする人間が今までいなかったのであろう。バカバカしいのであろう。「入浴だけさせてくれってよwww」という声も丸聞こえだ。
「……すいません、お客様。当店ではそのようなサービスを行っておりません」
ソープとは、法律上「お風呂」だ。入浴料だけ払う、お風呂はいる、なにも間違っていやしない!もう一度尋ねる……
「入浴料だけ払うので、入浴だけさせてください!」
「申し訳ありませんが、うちのお店はそのようなサービスを行っておりませんw(がちゃり)」
そう、「がちゃり」という音が聞こえた、聞こえた気がした。携帯電話が当たり前の用に流通した昨今「がちゃり」というのはあり得ない。だがしかし無理矢理通話を切られた「がちゃり」という音が聞こえた、聞こえた気がした。
この「がちゃり」で10軒目……
そう、吉原のソープで入浴料『だけ』を払って入浴『だけ』できるのかを調査して10軒に断られ続けているのだ!当たり前と言えば当たり前かも知れない、だがしかし、吉原には本当に入浴料で入浴だけさせてくれるソープはないのだろうか?
電話し続けること50軒……
「入浴場と明記しておりますが、そのようなご利用は遠慮していただけますでしょうか(がちゃり)」
バグズラボで電話をかけ続けてもラチがあかない。やはり現地に行くしかない!東京メトロを乗り換え、着いたのは日比谷線入谷駅。ネットで調べた通り確かにこの区画だけソープ店だらけ!どの店に飛び込みで訪ねようか悩んでいると、ふとあることに気がついた。客引きがいないのだ!普通歌舞伎町や池袋など風俗繁華街ではコトあるごとに客引きの兄ちゃんに声をかけられるのだが、吉原では声をかけられない。そう、吉原では全面的に客引きが禁止されているのだ。全くないと言ったらウソになるが、ほぼゼロに近いといっても過言ではない。安心してお店を選ぶことが出来る。それでは早速お店で聞いてみよう。
飛び込みで訪ねること20軒(合計70軒)……
「なんのために入浴だけするんですか?」
直接言われると、心が折れる。「ソープで入浴料だけ払って、入浴だけしてこいよー」と簡単に言ってくれたカクブツ編集長、週プレの方々を恨み始める。今日一日なにをしたか、ソープに電話、ソープに飛び込み。俺は何をやってるんだ。ソープソープソープ……ソープで遊んだことのないのに、ソープでエッチなことをしたことないのに、ソープで風呂だけ入れという。ソープは風呂だけは入れないという。ソープソープソープ……頭がおかしくなりそうだ!飛び込みはやめだ!喫茶店でお茶をしながら電話作戦に切り替える。
「……すいません。入浴料だけ払うので、入浴だけさせてください」
「ああ、いいですよ」
ようやくみつけた!入浴料だけで入浴だけ!すでにこのとき23時。丸一日かかってようやくみつけた!!!
白いプリウスで運ばれてお店へ。
「すいません、電話で入浴だけ……」
「……は?」
「いやいや、つい先ほど電話で入浴料だけ払って入浴させてくださいと言ったものです」
「は?」
そこから言った言わないの水掛け論。スタッフ同士で「俺じゃねえよ」と喧嘩がはじまった。「おれ、入浴料だけで入浴させねえし!」「俺も入浴料だけで入浴させるとか言ってねえし!」喧嘩の内容があまりにもバカバカしい。
「すいませんお客様、うちはソープですので」
「わかってます」
「申し訳ありません。一番可愛い女の子をつけますので……」
「……はい」
「サービス料込みの総額1万4000円、払っていただけますでしょうか?」
そのあと?
入浴したよ。