SP企画

風俗にまつわる有名人のコラムコーナー

kaku-butsuカクブツJAPAN〜俺にも言わせてくれ〜

kaku-butsuにゆかりのある人物が、週替わりで、時に熱く、時にクールに風俗に限らず世の中(ニュース、カルチャー、スポーツetc...)について、語り尽くすコラムコーナー

千原武

kaku-butsu SOD風俗調査団員
千原武

SOD風俗調査団の団員として、初期の頃から1年以上調査をおこなってきた女々しいM男。何よりも「心の繋がり」を感じられるかに重きを置いて風俗に通う。調査レポートはフェチ系やハードプレイ店のものが多いが、興味のある初心者の方にこそ是非読んでもらいたい。

渋谷のハロウィンで見た、たった一つの真実

2014/11/6(木)

千原武


昨年度まで活発に団員活動をしていた千原武と申します。本コラムでは第16回での掲載以来、久し振りにリレーのバトンをいただきました。念のため近況をお伝えしますと、先日ふと思い立ってブラジリアンワックスでVIO脱毛をおこない全抜きパイパン状態にしました。その後の飲み会でパイパンを晒しながら「グローバルスタンダード!」と叫ぶ一発芸をおこなったところ、まるでウケませんでした。

そんな私ですが、渋谷に住んで1年弱になります。渋谷という街は、基本的には住む場所ではなく来る場所です。特に私がブラブラすることの多い週末になれば、多くの人が着飾ってはやってきて、買い物だのデートだのと何かしらの楽しい時間を過ごします。

そんな人混みの中で寝起きのままラーメン屋へと向かう中途、私は考えました。これだけの人が何か楽しいことを求めてこの街にやってきますが、私にとってのこの街は日常の中での背景でしかありません。今の私なら、渋谷を訪れる人間の期待感を冷静に俯瞰して、そのエネルギーの奥にある闇を覗けるのではないだろうか。

それから数日して、10月の末日を迎えました。奇しくもハロウィンが金曜日に重なったこともあり、渋谷はいつになく人に溢れていました。ワールドカップ(WC)でも渋谷は盛り上がる場所として有名ですが、体感的にはWCの3倍は人で溢れていました。そんなハロウィンの夜、私は「やってくる彼ら」の観察を友人と始めました。

最低限のリテラシーとして仮装をしました。仮装さえしていれば、私は彼らの一員になれました。私も「ハロウィンを楽しく過ごすために渋谷に集まった若者」になれたのです。仮装がコンテキストとして作用し、私たちはコミュニケーションを難なく始めることができました。まるで遠い海外の地で、「地球の歩き方」を片手に歩く日本人を見付けたような、そんな仲間意識が芽生えていました。

コンビニに入ると、女性3人組にホチキスを買ってくれと頼まれました。ノータイムで買う判断をしてコンビニを出ると、「仮装の衣装が破けてきたからホチキスで止めたい」とのことでした。確かに彼女らの薄っぺらい衣装は裂け、ブラや太ももの際どい部分が丸見えになっていました。

せっかくなので「俺はホチキス上手いんだよねェ」だなんて戯れ言と共に彼女たちの衣装をホチキスで止めると、女性の1人がお礼と言わんばかりに私の顔に水性の塗料を塗ってくれました。「ソレっぽい」と言って笑う彼女たちに、私は不器用に笑みを返しました。彼女たちはみな上京しているものの、東北出身の地元仲間だと言っていました。

彼女らと別れて109付近を歩いていると、女性たちが車道に沿って座り込み、男からひっきりなしに声を掛けられていました。そんな中で、誰がどう見ても飛び抜けて仮装の似合ったブロンド白人美女3人組が何故かフリーで座っていました。私は友人に目配せをして彼女たちに「一緒に写真撮っても良いですか」と英語で尋ねました。

彼女たちは肯定してくれて、写真を撮ってから暫く話しました。なるほど、ドイツから日本に来てまだ2ヶ月ほどだと言う彼女らは日本語がほぼ喋れませんでした。そしてこれだけ男が入り乱れているにも関わらず、マトモに英語かドイツ語を話せる男にはまるで遭遇できなかったとのことでした。

マッチングの勝利だなァ、なんて思いながらカラオケに彼女らを連れ出しました。世界共通の定型的な褒め殺しをして、ボンヤリとした時間を過ごしました。始発前にカラオケを出て、自宅でもうちょっと飲まないか、実はめちゃくちゃ近いんだ、と告げました。

彼女らの1人がしかめっ面をして、私たちはLINEを交換して別れることになりました。始発前の渋谷は男女のコミュニケーションだけが雑音でした。私は友人と共に、改めて渋谷を見渡しながら歩きました。センター街の真ん中で、可愛くないけれど派手な仮装をしたぽちゃ女子が、外国人から乱暴にキスをされていました。ぽちゃ女子の連れの、やはり例によって可愛くはない女子は、気まずそうに少し距離を置いて立っていました。

捨てられたゴミだらけの道で、「フリーハグ」のボードを掲げた女の子と目が合いました。私が彼女を見詰め続けると、彼女は小さく頷きました。2秒後に私たちはハグをしました。優しい温度と彼女の気持ちが、心地好く身体に流れてきました。彼女に「何故やってるの」と尋ねると、変わらない愛嬌のままに「何となく」だなんて恍けるのでした。

あの日、渋谷でおこなわれた、すべての行為に生産性なんてなかったのかも知れません。挨拶をしても、話をしても、ハイタッチをしても、キスをしても、セックスしても、すべてが「 Happy Halloween」のお祭り騒ぎに内包されて、その日一日ですべての魔法が解ける気がしました。それは渋谷という街が、お祭りのために用意された舞台が、そうさせているのだと感じました。

私は「フリーハグ」の彼女だけが、世界のすべてを知っている気がしました。外面の仮装をするだけでなく、言葉まで偽り合って欠けた心を埋め合う夜に、彼女のハグだけが正直でした。 "You can be as you are." 流行に遅れた「ありのままの」でしょうか。ゴミ臭く、胡散臭い、演じられた街の空気を浄化するように、ポツポツと雨が降り始めていました。