SP企画

風俗にまつわる有名人のコラムコーナー

kaku-butsuカクブツJAPAN〜俺にも言わせてくれ〜

kaku-butsuにゆかりのある人物が、週替わりで、時に熱く、時にクールに風俗に限らず世の中(ニュース、カルチャー、スポーツetc...)について、語り尽くすコラムコーナー

第13回のコラムは、今回は「kaku-butsu」の覆面調査団員である伊勢竜太郎さんに筆を取っていただきました。

伊勢竜太郎

kaku-butsu SOD風俗調査団員
伊勢竜太郎

SOD覆面風俗調査団員 として、特に25歳〜40歳くらいまでの「お姉さん」「OL」「人妻」をメインに調査に励んでいる。容姿よりも雰囲気やテクニックを重視し、受け身派。エロいお姉さんにエロく舐められるのが好きで、その感動を分かりやすく伝えることをモットーとしている。

五月病にも効く?オトナのための「毒のある文学ガイド」

2014/05/09(金)

伊勢竜太郎


調査団員の伊勢竜太郎と申します。
このたびkaku-butsu内にコラムを書かせていただく大役を賜りました。エロから離れたテーマで熱く語るということで、そうなると私には文学しかありません。生まれつき身体も弱く、インドア派として育ちまして、物心ついたときから本を読みふけっていました。学生時代はいつも一人で図書館に入り浸るような暗い青春を過ごした、典型的な文学青年です。小説だけでなく詩歌、哲学書、ノンフィクションなど幅広い活字好きな私ですが、今回はあえて一番ディープな、文学の神髄ともいえる小説の痛々しい深みに踏み込んでみたいと思います。
ちょっと重たいかもしれませんが、お付き合いいただければ幸いです。

いまや娯楽のコンテンツ全体が、とにかく「毒」を取り除いて、安全安心なものに浄化されようという傾向にあります。テレビ番組だってすっかりスポンサーとモラルに配慮した綺麗事ばかりが流れ、毒がなくなって全く面白くありません。作りが幼稚になっていると感じる方も多いのではないでしょうか。
そもそも世の中がどんどん当たり障りのない安全で安心な社会になっているようですが、しかし人間の心というのはいつでも毒を求めるものです。それは人間の心自体に底知れぬ毒が潜んでいるからです。その人間の心の毒を如実に表現したものこそが、「本当の文学」であると私は思っています。

「本当の文学は、人間というものがいかにおそろしい宿命に満ちたものであるかを、何ら歯に衣着せずにズバズバと見せてくれる。〜(中略)〜 この人生には何もなく人間性の底には救いがたい悪がひそんでいることを教えてくれるのである。〜(中略)〜 一番おそろしい崖っぷちへ連れていってくれて、そこで置きざりにしてくれるのが「よい文学」である。」
−−− 三島由紀夫 著「若きサムライのための精神講話」より

そんな三島の作品にも、ずいぶんと危ない崖っぷちまで連れていかれた覚えがありますが(笑)、私はこの「文学の毒」に若い頃からどっぷりと浸かってしまった人間です。捻くれた価値観を持ってしまったせいか友達こそ少ないですが、それでも働いて給料を貰うことが出来ているので世の中なんてどうにかなるものです。逆にいえば、文学の毒を浴び、人間の根源の一番痛い部分からえぐるような視点で現
実を捉えることを学んだからこそ、若年期のいじめやコンプレックスも克服でき、社会からドロップアウトせず何とか生きられているのかもしれません。

今回のコラムでは、そんな私が選ぶ「おそろしい崖っぷちへ連れていってくれる文学作品」を三作品、紹介いたします。いずれも容易に手に入る有名な小説となります。 影響を受けすぎて病んでしまっては困りますが、これを読んでいる皆さんはちゃんと成人して、しっかりと自分の道を歩んでいる方ばかりだと思いますので、かえって精神的に参ったとき(五月病)など、鬱を吹き飛ばす良い刺激になるのではないでしょうか?チープで予定調和的な娯楽に物足りなくなった脳味噌にとっても、きっとスリリングな刺激を与えてくれることでしょう。


夏目漱石「明暗」

漱石の作品はどれも一流のおそろしい文学だと思っていますが、なかでもこの「明暗」が一番、毒です。
他の漱石の名作に比べると、話にもイマイチつかみどころがなく、しかも未完の長編なので、学生時代に初めてこれを読んだときは、つまらなくて途中で投げ出しました。20代の半ば、暇を持て余していたときにもう一度漱石を読み返したのですが、その時ですらこの小説は途中で飽きてしまいました。
私が本当にこの小説の凄さに気付いたのは、30代になってからです。周りがどんどん結婚し家庭を持ち始め、そんななか自分だけはヤクザ者の独身貴族を気取っている。ある時、新婚の家庭に招待されたときに、何ともいえない気まずさを覚えました。結婚なんて興味ないような奇人変人キャラを押し出す自分と、それに学生のノリで付き合ってくれるけど、どことなく自分と距離を置く夫婦。趣味に金をつぎこめる自分と違って、彼らは家計のやり繰りも大変そう。とても微妙な空気に包まれました。そして「ああ、この違和感、漱石の明暗って、こんな感じじゃなかったしら」と思い出し、本棚の奥から引っ張り出してきて、こんどは一気に夢中になって読んだというわけです。痛々しいほど胸を衝かれました。特に、自分が小林という登場人物にダブりました。
どこのページから開いて読んでも、オトナの世界につきものの、他人との関係性のいやらしさのオンパレードです。家族、結婚、親戚付き合い、それに蔭をさす自尊心、嫉妬、虚栄心、満ち足りなさ……その毒性は不変であり、いつ読んでもはっとさせられます。漱石の覚悟の結晶で、日本文学史上有数の傑作といえます。
家庭を持った、または家庭を意識する年頃のオトナの方に特におすすめです。

☆お気に入りの一文☆
「そうしてこの己は又どうしてあの女と結婚したのだろう。」


車谷長吉「赤目四十八瀧心中未遂」

漱石の作品が比較的上流階級の知識人の間での物語なのに対して、こちらは孤独で落ちぶれた人間の、ドン底の物語です。主人公は一流大学を出ながらも、就職した会社に張り合いを見出せず、安定した身分を捨て無一文となって、故郷の県で最下層の仕事から人生をリセットします。
私も東京で鬱をこじらせて仕事を辞め、地元の県でバイト同然からスタートし直した、まさに同じような境遇のときに読みましたので、全身全霊で影響を受けてしまいました。「中流の生活」に嫌悪を抱き、生々しい根源の何かを求めてもがくインテリとは、まさに自分とダブります。
恋愛ドラマといえばそうなんですが、とにかく作品の凄味がヤバいです。猛烈に惨く、痛く、おぞましい。文章からは生臭さが紙面から漂い、読み手も腹をナイフで切られるくらい痛々しい描写です。この人の小説は、他の作品もそうですが、怜悧すぎる視点を通して人間の業を浮き彫りにし、人生がいかに苦行かということを赤裸々に語っていると思います。
苛烈な描写に身の毛がよだった反面、この小説の主人公の境遇に比べたら自分の生き様なんぞ、なんて甘く簡単なものか、と強気になったのを覚えています。
あてもなく社会に何となく漂っている人、またそれがどこか不安だと思う人におすすめです。

☆お気に入りの一文☆
「それはこの世のことならぬ至福だった。だが、そうであるがゆえに、射精は死だ。」


深沢七郎「楢山節考」

この作品は、かなり強い猛毒といってもいいかもしれません。なぜかというと近代以降の「人間中心主義(ヒューマニズム)」と真逆の、それを棄て去った視点から人間を描いているからです。人権すらないといえます。それゆえに、ヒューマニズムの裏に潜む人間の本性と業を生々しく暴き出していることに成功しています。現代日本人にとっては読むと衝撃すぎて圧倒されるばかりじゃないでしょうか。
私も、三年前くらいでしたか、前述の車谷長吉先生も絶賛している名作らしいから読んでおこう、くらいの軽い気持ちで手に取って、最初は何だか「にほんむかしばなし」みたいな山間の村の民話だなあ、と思ってるうちに、取り返しがつかない世界まで引き込まれてしまったのでした。短いので1日で読み終わりますが、淡々とした描写がよく考えるとだんだん恐ろしくなり、そして後半部では手が震えてきます。涙目になります。読後、これほど圧倒された小説はありません。安っぽい愛だの思いやりだの、そんな概念に慣れた頭では完全に混乱し引き裂かれることでしょう。映画がカンヌのグランプリを獲りましたが、おそらく今じゃテレビ放映もアウトなんじゃないでしょうか。不気味で異様なオーラが文章から漂い、呪われてるんじゃないかと思うほどです。いや、実際に呪われているといっても過言ではないです。これから先も永遠に不滅の、凄まじい毒薬たる小説だと思います。
民主主義にヌルく浸っている全日本人におすすめです。

☆お気に入りの一文☆
抜粋不能。すべてが衝撃的。


以上、三作品紹介しましたが、共通しているのは「人間の内奥に潜むおぞましい本質」を鬼のように、えげつなく暴き出していることです。くれぐれも服用のしすぎにはご注意いただいて、あくまでも飽食と平和ボケの現代日本においてふやけてしまったハートに喝を入れる程度の、良毒にならんことを祈ります。